恐怖とトレード(2)なぜ恐怖が利益の源泉になるのか?

  1. 投資全般

本連載は「恐怖とトレード」をテーマに恐怖を理解し、トレードに活かせる具体的なアイディア・手法・行動にまで落とし込むことを目的にしたものである。
第1回では恐怖とはそもそも何であるのかについて見ていった。

恐怖とトレード(1) 恐怖とは何か?

第2回目の今日は、なぜ恐怖が投資における利益の源泉になり得るのかを考える。

人はなぜ恐怖するのか?

恐怖は非常に原始的な反応だ。
脳の中で恐怖を感じる機能を司っているのは偏桃体と呼ばれる部位で、大脳辺縁系に属している。この部位の起源は古く、爬虫類にもヒトと同じように偏桃体が存在している。

偏桃体が破壊された「ウルバッハ・ビーテ病(Urbach-Wiethe disease)」という珍しい疾患の患者は、他の人ならば恐怖を感じる場面で「非常に強い好奇心」を感じてしまうのだという。医師のジャスティン・ファインスタインはこう述べている。

人間が感じる恐怖の本質とは、生存本能。恐怖を感じることができなければ、自分の命に危険をもたらす物や状況、人物を避けることができない。彼女がこれまで生きているということ自体が驚きだ

実際に彼女は30歳のころ強盗に襲われ、体をつかまれ、喉にナイフをつきつけられたときに、まったく動じずに興味深げに強盗を観察していた。強盗は逆に恐怖を感じて手を放し、女性はその後、普通に歩いて帰ったという。

このときは被害に合わなかったが、医師らは、この女性が「恐怖を感じないために、強盗や銃暴力やドメスティック・バイオレンスといったさまざまな犯罪の被害者となってきただろう」とみている。

恐怖とは、恐怖を感じないことを評して、生きていることが驚きと言わしめるほど生きていくために不可欠な感情である。
生命にかかわる危機的な状況で強い好奇心を発揮してしまう個体よりも、「怖い!」と心を恐怖に支配されて即座に行動する個体のほうが生き残りやすかっただろうことは想像に難くない。

ちなみにホラー映画では、
「ちくちょう!こんなところにいられるか!俺は家に帰るぞ!」
といって真っ先に行動するモブは犠牲になってしまうお約束の展開がある。
これは恐怖を感じたらすぐに行動したほうが助かる可能性が高いという本能に植え付けられた行動を取った人間が殺されてしまう状況を見せることで、さらに恐怖をあおる上手い仕掛けだ。

いずれにせよ「私は怖がったりしないぞ!」などといくら思ったところで恐怖を感じないことは不可能である。
人はなぜ恐怖するのか?に対する最もシンプルな答えは、「生存のため」という当たり前のものになる。

生存のためになくてはならない恐怖だが、現代生活の特定の状況下では恐怖はプラスではなく、マイナスにはたらいてしまうこともある。恐怖に支配された人間が行う投資行動はそのいい例で、恐怖のために救われることは残念ながらあまりない。
では恐怖によってどのような投資行動が行われてしまうのだろうか?

恐怖によって行われる投資行動とは?

人は損失を恐れる。
利得と損失はたとえ金額が同じだとしても非対称性を持っている。実際に脳内の活動を見ても、利得状況と損失状況では腑活する脳内部位自体がかなり異なることが知られている。
利得状況ではドーパミンなどの報酬系と呼ばれる回路が活性化すが、偏桃体はほとんど腑活されない。 一方で損失状況ではロバストに偏桃体が腑活する。

利得と損失で感じ方が異なってしまうこのような意思決定モデルは「プロスペクト理論」とも呼ばれている。マーケティングでもよく使われる行動経済学の用語なので聞いたことがある人も多いのではないかと思う。

と、そういった前提を踏まえた上で。

恐怖による行動には次の6種類があることを第1回目で確認した。

  • 凍結
  • 逃避
  • 攻撃
  • 服従
  • おびえ
  • 気絶

これがそれぞれ投資の中ではどのような行動になって表れるのかを考えてみる。

凍結
想定外の含み損を抱えてしまった!
焦って行動すると損失が拡大してしまうかもしれない。まずするべきことは現状の把握!なんでこんなことになってしまったのか、今持っているポジションをどうするべきなのかを立ち止まって考えよう。

逃避
おうおうおうおうおうおwwwwwwwwwwwwパァンッパァンッ(ヒレを叩く音)おうおうおうおうおうおおうおうおうおうおうおwwwwwwパァンッパァンッ(ヒレを叩く音)おうおうおうおうおうおwwwwwwおうおうおうおうおう

攻撃
メ〇ルリンチが空売りしたせいで損した。機関はいつだって個人投資家をカモにするとんでもない奴らばかりだ。くそ。あいつらさえいなければ俺の株は下がったりしなかったのに。

服従
値動き全然わからない。SNSで有名なインフルエンサーについていきたい。特に彼はプロの金融トレーダーだ!彼を信じていれば間違いない!何があってもずっとついていきます!

おびえ
こんなに価格が下がっているときに買うなんてできっこない!きっとこの下落が暴落の始まりだ!
え?なに?価格が上がり始めた?こんなに価格が上がってるときに買うなんてできっこない!暴落したら大損するじゃないか!

気絶
あああああ!仕事が終わったらなんか知らないけど口座が真っ赤っか!いやだ!何も見ていない。根拠はないけど明日になったらプラテンしてるはず。今日は酒飲んで寝る。

例は私が好き勝手に妄想してあげたもだが、投資経験者でこれらの行動に思い当たる節がない人はいないのではないか。
恐怖のおかげで助かることがあることも事実だが、上にあげたような例では助かるどころか逆に破産の原因になることすらある。恐怖は、こと投資においてはこちらかというと邪魔な情動である。

投資で成功するためには普通とは異なる精神状態に身をおかなければならないとはよく言われていることだが、これは恐怖を感じるという人間の基本的な性質に逆らわなければならないことも大きく関係している。

なぜ恐怖が利益の源泉になるのか?

恐怖は億年単位の起源がある情動であり、 どんなに恐怖を感じないようにしようと思って精神を鍛えたところで限界がある。投資で感じる恐怖を克服できると本当に思っている人がいたとしたら、その人には投資体験が足りていないと言わざるを得ない。

あまりきれいな話ではないが、こんな話がある。第二次世界大戦時のアメリカ軍の戦いぶりに関する公式報告書にある調査では、

「第二次世界大戦で戦った米兵の4分の1が尿失禁の経験があると認め、12.5%は大失禁を経験したと認めている」

さらに激戦を体験した兵士に絞ると、約50%が尿を漏らしたことを認め、25%は大便を漏らしたという。
これはアンケートによる結果なので、本当は漏らしたが漏らしていないといった兵士も相当数いるだろうことは想像に難くない。実際に尿失禁を起こした割合はもっと多いだろうと推測できる。
(尿失禁は恐怖によって生じる。生きるか死ぬかのときに下腹部に余計な荷物があってはならないので、激しいエネルギー消費の準備のために膀胱を空にしようとするため)

兵士は厳しい訓練を受けている。のんきに生きている一般的な現代日本人と、厳しい訓練を受けた兵士とで、どちらが精神的なタフなのかは考えるまでもない。

そして恐怖には逆らえないという事実は利益の源泉になりうる。たとえば200日移動平均線を意識している投資家は多いとは思うが、投資家の100%が意識しているかというとそれは絶対にない。意識している人は割と多くいるとは思うが、それでも5割もいかないのではないか。一方で、恐怖は特定の条件に置かれた人間がほぼ100%感じる。どんなに感じないようにしようと思ったところで感じてしまう。

  • 恐怖を感じない人はいない
  • 恐怖によって人は何かしらの恐怖による行動をとってしまう

この2点の事実が、恐怖が利益の源泉になる理由である。

第1回、第2回の連載を通して、恐怖とは何であるか?なぜ恐怖が使えるのか?を丁寧に見てきた。
次回は恐怖に関連したトレードとして具体的に何が使えそうであるか、すなわち具体的にどういった状況で恐怖を感じている人が多くなるといえるのかを考える。

BBBでした。



(参考文献)
『恐怖する脳、感動する脳』
『人はなぜだまされるのか―進化心理学が解き明かす「心」の不思議』
『デイトレード』
『恐怖の哲学 ホラーで人間を読む』
『アメリカの兵士』

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